シチュエーション・ラヴ

桜井 Michelle 亜美

2020年4月25日

 ユラが抜けた今夜のzoom画面は、群青の海底みたいに仄暗い。

 最初はユラの話を避けていたけど、みんな彼女のウィンドウが消えたことを痛いほど意識している。

 皆が少し酒に酔い始めて個々の雑談に逃げ始めた頃、あたしはついに澪に聞いてしまった。

 「ごめん、NGなら言わなくてもいいけど、どうしても知りたくて。澪も・・・ユラとそういう関係に? 」

 澪は俯いたまま、少し自嘲的に呟く。

 「夜中に泣きながら部屋に来て、フェイクでも誰かに必要とされないと消えてなくなる、死にたくなるって・・だから」

 澪の低い声にあたしは無言で眼をそむける。いつかのあたしがユラと重なる。

 「求められるのが存在証明って最低だな、アイツと同じじゃん」

 タクミがそう言って肩をすくめる。

 「そいつは映研の頃からみんなを騙して、いい仲間の仮面をかぶってたけど、とっくに壊れてた。仮面が剥がれたらここにはいられなくなる」

 「それ、誰のこと?」

 アヤメの質問に全員が固唾を呑んで答えを待つ。

 タクミの綺麗な顔が背景の銀河と重なって青白い亡霊に見える。

 「澪、10年の片思いを終わらせて。もう苦しみたくない」

 あたしははっとしてタクミのすべてを諦めたような眼差しを見つめる。

 美意識の強い中性的なタクミは、役者としても仲間としても、誰も代わりができない個性があった。彼はいつもみんなから少し距離をおいていて、計り知れない怜悧な影があって、繊細で優しかった。でもまさか彼が澪を好きだったなんて・・。

 長い沈黙のあと、澪が低い声で答える。

 「タクミの気持ち、気がつけなくて・・・ありがとう。でも、ごめん」

 「言ってくれてよかった。俺も・・ありがとう」

 タクミが小さく手を降りながら画面から消える。

 また1人、離脱。

 心がヴァーミリオンに染まる。

 人の想いはこんなに強くて、儚くて、残酷だ。

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