結子ちゃんのこと。
書かずにはいられない。
あの日から、結子ちゃんの思い出や伝えたかった色んな言葉が、頭の中でぐる
ぐる回り続けてて・・・。
だから結子ちゃんに話しかけるつもりで書きます。
to Yuko
初めて会ったのは、映画「イノセントワールド」のロケ地、青森の竜飛崎。
その時の結子ちゃんは17歳だったよね。
一目見た時、この世にこんな可愛い子が存在するんだって、衝撃を受けた。
高校の制服にショートカット。
きらきらした真っ黒な澄んだ眼はほんとうに綺麗で愛くるしくて、そしてどん
な言葉も心の奥底から話してくれる。
媚びたり、空気を読んであわせたり、うわべだけ取り繕ったりすることがぜん
ぜんなくて、それなのに言葉が心地よく心の真芯に響く。いつでも結子ちゃん
は全身、結子ちゃんだった。
無限の可能性を感じたし、将来、きっとすごい女優さんになる、と思った。
この子は本物だって。
そして何より、その役になりきってしまう演技への集中力と、自分を少しも飾
らない率直さが大好きになったよ。
その日からあたしの心の部屋に、自分の分身であるアミ=演じてくれた結子ち
ゃんが住むようになった。
当時、小説「イノセントワールド」はそのダークさやインモラルさで賛否両論
で、ネットでちょっと検索すると「死ね」や悪口が何百個も並んでた。だんだ
ん人が信じられなくなって、パソコンを開くのも怖くなった。
でも、勝手に分身と思ってた結子ちゃんがこの作品にシンクロしてくれたんな
ら、だいじょうぶ、と思えた。
原作も映画も好き、と言ってくれたことが、どんな書評よりうれしかったん
だ。
結子ちゃんがアミの役を背負ってくれたことで、あたしはすごく支えられた
し、他のなによりも励まされた。
それは今もずっと変わらない。
小説「サーフスプラッシュ」を書き上げた時、解説をお願いするのは結子ちゃ
んしかいないと思った。
この小説は17歳の2人の女の子の文通形式で綴られてる。2人は友情で結ばれ
てるけど、主人公のヒトミは複雑な事情を背負っていて、居場所を見つけられ
ずにもがいている。チサトは自由奔放で、学校をやめて恋愛やクラブを楽しん
だり、型にハマらない17歳の生活を謳歌してる。
ヒトミは自由なチサトに憧れて、茅ヶ崎の海でサーフィンをしたり男の子と付
き合ったりするけど、愛されてるのがあたりまえの人々の輪に違和感を感じて
どうしても溶け込めなくて・・・・。
最後はチサトへの絆を感じながらも、自らの命を絶ってしまう。
そんなきらきらしたアオハルとはかけ離れた、「もうひとつの青春」の話。
結子ちゃんなら、きっとヒトミとチサトの気持ちを理解してくれると思った。
学校の教室じゃない居場所を求めて彼女たちが見た景色が、結子ちゃんにはき
っと見えると思った。
そして・・・。
書き上げてくれた解説の素晴らしさ。
結子ちゃんはこの解説で、女優じゃなく葛藤を持つ1人の女の子として、17
歳の高校時代の、そして解説を書いてくれた19歳の内面のずっと奥まで見せて
くれたよね。
どの言葉もきりきり痛いほど心に深く刺さった。
結子ちゃんの過去の自分を見つめる眼差しの聡明さや表現力の豊かさ、完成度
にただただ驚いて、何度も読み返したのをよく覚えている。
結子ちゃんは間違いなく文才がある。
19歳でここまで書ける子なんて、ごく稀だと思う。
そして何より衝撃だったのは、19歳にしてもう高校生の自分を俯瞰する高みに
のぼっていたこと。
家庭の事情で感じた居心地の悪さ、淋しさと、それを隠そうと強がって甘え方
を忘れてしまった時期。大切にしてくれる存在に気づいて、やっと心が溶けた
こと・・。
疎外感の中で未熟さや幼さが生む感情のほつれを、こんなに繊細な感性と確
かな描写力で書けるなんて・・・。
強がりたい。大人に見せたい。でも心の真ん中では甘えたい。そんな見えにく
い高校時代の葛藤を人に伝わるように書くのは、とても難しいのに、この文章
はぐいぐい心を捉えて離さず、読み終わったあと驚くほど色々な色彩の気持ち
を呼び起こしてくれた。
ありのままの感情を飾らずに描くまっすぐな言葉に、勝手に親友になれた気が
してすごく感動して・・・・。
もしかしたらこの聡明さや表現力が、結子ちゃんの優れた演技を生み出してた
のかもしれないなって思ってた。
そして結子ちゃんはイノセントワールドで演じたアミとして、ヒトミにメッセ
ージを書いてくれたよね。
「 ・・・諦めてほしくなかった。いつか絶対、全部吐き出せる人に出会える
はずだから。もう少し生きてみなきゃわからないけど・・・」
訃報を見て、頭が真っ白になって・・・・。
事実を受入れられなかったし、心が麻痺して何も感じられなかった。
その日はずっと時間がループして、永遠に終わらない気がした。
丸1日たってこれが本当のことなんだ、とようやく分かりはじめて・・・。
何かに背中を押されるように「サーフスプラッシュ」の解説を読み直した。
「もう少し生きてみなきゃわからないけど・・」の一文を見た瞬間、
突然、心の部屋がナイフで引き裂かれて、結子ちゃんがこの世界にもういな
いんだ、と感じた。初めて大きな喪失感に襲われて涙が溢れてきた。
結子ちゃん、「もう少し生きてみた」んだよね?
全部吐き出せる人に出会ったんだよね?
そう信じてる。
だってこんなにたくさんの人に愛されてる人だから。
時間がたつにつれて、たくさんの後悔が心に渦巻いていった。
どうして心の部屋の結子ちゃんに頼りっぱなしで、リアルな結子ちゃんにこん
なメッセージを発信できなかったんだろう。
🌟 🌟 🌟
ねえ、小説を書いてみて。
きっとすごい傑作が書けるから。
結子ちゃん自身が高校時代、お父さんが再婚した家で感じてた淋しさや行き場
のなさを。
傷つきたくなくて感情にフタをして、甘え方を忘れてしまった女の子の話を。
その子が学校帰り、家に帰りたくなくて電車を舞浜駅まで乗り越して、そこで
見た空の色を・・。
その子は女優になってすごく成功して、映画やドラマで色んな女性の人生を生
きるんだ。
とても美しくて演技力があって、日本中の人に愛されてたし、彼女自身
の人生を探すことにも真剣だった。恋をして、子供も生まれて、そし
て・・・。
ラスト、どんな結末にするかは、この小説世界の神さまになって決めて。
神さまだから、どんなストーリーにだってできる。
その小説を書き上げたら、心に背負ってる荷物が少し軽くなるかもしれない。
肌に吹きすぎる風も違う感触になるかもしれないよ。
あたしにとって「イノセントワールド」や「サーフスプラッシュ」がそうだっ
たように。
🌟 🌟 🌟
ごはんに誘って、たわいもない会話をしたあとで、そんなことを話せればよか
った。
もちろん結子ちゃんの周りには最愛の家族がいて、大切なともだちや仲間がい
て、仕事で彼女を輝かせてくれる才能ある人たちがいて・・・
あたしなんか遠くで見てるだけだったし、何もできなかったかもしれないけ
ど、それでも後悔がずっと頭の中をぐるぐるまわり続けてる。
「解説」という名前の、結子ちゃんからの手紙。
たった一度だけ、心の奥底をみせてくれたのに
ちゃんと届く「返事」を発信できなかったこと、
ほんとに自分で自分が許せない。
こんなに時間がたってしまった今、あたしに何が許されてるんだろう?
その悔いをずっと忘れずに、
いつも自分に突きつけながら生きていくしかないよね。
あの澄んだ真っすぐな瞳をずっと忘れないこと。
数えきれない渾身の名演技を、心に刻み付けて。
きらきらした笑顔の輝きの奥で、結子ちゃんが見つめていた景色がどんなだっ
たかを想像し続けること。
答えは出ないけど、それでも・・・。
やっと気づいた。
心の部屋の結子ちゃんは出て行ってない。
あたしが忘れない限り結子ちゃんはそこにいて、輝きの向うにあるほんとの心
を見てって言ってくれてるんだよね?
それを小説にしたり、映画やドラマにして、広い空で深呼吸したい誰かが住め
る世界を作ってって。
いつかそっちの世界で再会したら、また一緒にそういう新しい作品を作りたい
な。
結子ちゃんから両手に抱えきれない、たくさんのものをもらった。
心からありがとう。
感謝を伝えるのがこんな時だなんて、それも自分が許せないけど・・・。
結子ちゃんに出逢えてほんとうによかった。
ずっとずっと忘れない。
ずっと大好きだよ。
You will be in my mind forever.
from Ami